はじめに
安価なテスターで良いものがないか探しており、ANENGという中国メーカーに行きつきました。AN8008かAN8009を買おうかな~と検討してましたが、少しサイズが大きいけど、20000カウント5桁表示でお手頃なANENG AN870という物が有るのを知り、購入して使ってみたところ、良さげだったので紹介(レビュー)します。
よく似たスペックのものが別メーカーからも売られているようです。実物は見てませんが、RICHMETERS RM219(精度的に似てるのはRM303か?)とかも同じものかと思います。
スペック等
測定機能の項目と仕様は下記の表になります。(メーカースペックより)
測定項目 | レンジ | 精度 |
DC電圧 | 19.999mV/199.99mV/1.9999V /19.999V/199.99V/1000V | ±(0.05%+3) |
AC電圧 | 19.999mV/199.99mV/1.9999V /19.999V/199.99V/750V | ±(0.3%+3) |
DC電流 | 1.9999A /19.999A / 19.999mA /199.99mA /99.99μA /1999.9μA | ±(0.5%+3) |
AC電流 | 1.9999A /19.999A / 19.999mA /199.99mA /99.99μA /1999.9μA | ±(0.8%+3) |
抵抗 | 199.99Ω | ±(0.5%+3) |
〃 | 1.9999kΩ/19.999kΩ/199.99kΩ | ±(0.2%+3) |
〃 | 1.9999MΩ/19.999MΩ | ±(1.0%+3) |
〃 | 199.99MΩ | ±(5.0%+5) |
コンデンサ | 9.999nF | ±(5.0%+20) |
〃 | 99.99nF/999.9nF/9.999uF /99.99uF/999.9uF | ±(2.0%+5) |
〃 | 9.999mF | ±(5.0%+5) |
周波数 | 99.99Hz/ 999.9Hz/ 9.999kHz / 99.99kHz/ 999.9kHz/ 9.999MHz | ±(1.0%+2) |
デューティー比 | 1%~99% | ±(1.0%+2) |
いろいろと多機能ですが、バーグラフ表示やデュアル表示(AC電圧測定時に周波数も表示したりなど)の機能は有りません。
DC電圧は±0.05%±3degとなかなかの精度です。
ホントに?と疑ってしまうようなスペックですが、誤差がそれぞれのレンジで具体的にどの位の値になるか計算してみました。
測定項目 | 測定値 (レンジMAX) | レンジ単位 | %誤差 | dig誤差 | 合計誤差 | 誤差の単位 |
DC電圧 | 19.999 | mV | 0.01 | 0.003 | 0.013 | mV |
〃 | 199.99 | mV | 0.1 | 0.03 | 0.13 | mV |
〃 | 1.9999 | V | 1 | 0.3 | 1.3 | mV |
〃 | 19.999 | V | 10 | 3 | 13 | mV |
〃 | 199.99 | V | 100 | 30 | 130 | mV |
〃 | 1999.9 | V | 1.0 | 0.3 | 1.3 | V |
AC電圧 | 19.999 | mV | 0.06 | 0.003 | 0.063 | mV |
〃 | 199.99 | mV | 0.6 | 0.03 | 0.63 | mV |
〃 | 1.9999 | V | 6 | 0.3 | 6.3 | mV |
〃 | 19.999 | V | 60 | 3 | 63 | mV |
〃 | 199.99 | V | 600 | 30 | 630 | mV |
〃 | 750 | V | 2.25 | 0.3 | 2.6 | V |
DC電流 | 199.99 | μA | 1.0 | 0.03 | 1.03 | μA |
〃 | 1999.9 | μA | 10 | 0.3 | 10.3 | μA |
〃 | 19.999 | mA | 100 | 3 | 103 | μA |
〃 | 199.99 | mA | 1000 | 30 | 1030 | μA |
〃 | 1.9999 | A | 10 | 0.3 | 10.3 | mA |
〃 | 19.999 | A | 100 | 3 | 103 | mA |
AC電流 | 199.99 | μA | 1.6 | 0.03 | 1.63 | μA |
〃 | 1999.9 | μA | 16 | 0.3 | 16.3 | μA |
〃 | 19.999 | mA | 160 | 3 | 163 | μA |
〃 | 199.99 | mA | 1600 | 30 | 1630 | μA |
〃 | 1.9999 | A | 16 | 0.3 | 16.3 | mA |
〃 | 19.999 | A | 160 | 3 | 163 | mA |
抵抗 | 199.99 | Ω | 1 | 0.03 | 1.03 | Ω |
〃 | 1.9999 | kΩ | 4.0 | 0.3 | 4.3 | Ω |
〃 | 19.999 | kΩ | 40.0 | 3 | 43 | Ω |
〃 | 199.99 | kΩ | 0.4 | 0.03 | 0.43 | kΩ |
〃 | 1.9999 | MΩ | 20 | 0.3 | 20.3 | kΩ |
〃 | 19.999 | MΩ | 200 | 3 | 203 | kΩ |
〃 | 199.99 | MΩ | 10 | 0.05 | 10.05 | MΩ |
コンデンサ | 9.999 | nF | 0.5 | 0.02 | 0.52 | nF |
〃 | 99.99 | nF | 2.0 | 0.05 | 2.05 | nF |
〃 | 999.9 | nF | 20.0 | 0.5 | 20.5 | nF |
〃 | 9.999 | μF | 0.2 | 0.005 | 0.205 | μF |
〃 | 99.99 | μF | 2 | 0.05 | 2.05 | μF |
〃 | 999.9 | μF | 20 | 0.5 | 20.5 | μF |
〃 | 9.999 | mF | 500 | 5 | 505 | μF |
周波数 | 99.99 | Hz | 1 | 0.02 | 1.02 | Hz |
〃 | 999.9 | Hz | 10 | 0.2 | 10.20 | Hz |
〃 | 9.999 | kHz | 100.0 | 2 | 102.0 | Hz |
〃 | 99.99 | kHz | 1 | 0.02 | 1.02 | kHz |
〃 | 999.9 | kHz | 10 | 0.2 | 10.2 | kHz |
〃 | 9.999 | MHz | 100 | 2 | 102 | kHz |
%誤差がフルスケール誤差(%F.S)なのかリーディング誤差(%rdg)なのか、説明書を見てもわからないので、悪いほうにみてフルスケール誤差のレンジMAX値で測定したとして計算してます。
リーディング誤差の場合、%誤差は測定値に比例します。
上の表からみると、例えば1.9000Vを±1.3mVの精度で測れるということになります。やっぱりホントに?って思っちゃいますよね。私の計算がまちがってますかね。

外観もそんなに安っぽくはありません。付属のテストリードの品質は判りませんが、今回は付属品が多いほうのパッケージで購入してますので、2種類のテストリードがあります。ミノムシクリップを先端にねじ込めるものが便利ですね。一度取り出すと、しまう時に付属のポーチがパンパンです。
バックライトが少し暗いですかね。もしかしたらニッケル水素電池(単三×2個)で動かしているので電圧が低いせいかもしれません。下記のDC電流測定時に点灯させてますのでご確認ください。
動作確認
動作確認といっても、精度を確認するような基準電圧源や測定器を持ってないので、ジャンクで購入したアドバンテストのR6144で電圧・電流を出力して、ヒューレットパッカード(hp)製マルチメータ3478A(現:キーサイト)の測定値と比較しました。
※一時期ジャンク測定器にハマってしまい、ヤフオクで買いあさっていました。
もちろんどれも校正などしてませんので、何が正なのかは判りませんが、ここでは雰囲気だけでもお楽しみください。
DC電圧測定

AN870は5桁表示のテスターですが、一番上の桁が1のみなので、2.XXX~9.XXXの間は4桁表示になってしまうのでちょっと損した気持ちになります。R6144のそれぞれの出力レンジのMAXが1.6000なので、そのポイントで測っております。測定値は実際にモニタに表示された値を記入しております。
R6144 出力設定値 | AN870 測定値 | 3478A 測定値 | 差 |
16.000mV | 16.003mV | 16.0049mV | -0.0019mV |
160.00mV | 160.14mV | 160.107mV | 0.033mV |
1.6000V | 1.6007V | 1.60028V | 0.42mV |
16.000V | 16.009V | 16.0023V | 6.7mV |
32.000V | 32.01V | 32.004V | 6.0mV |
DC電流測定

微小な電流レンジはAN870の方が豊富なため、いい感じです。
R6144の出力の都合で、160mAまでを確認しました。
R6144 出力設定値 | AN870 測定値 | 3478A 測定値 | 差 |
0.1995mA | 199.79μA | 0.214mA | -14.2μA |
1.6000mA | 1602.0μA | 1.615mA | -13.0μA |
16.000mA | 16.016mA | 16.023mA | -0.007mA |
160.00mA | 160.28mA | 160.115mA | 0.165mA |
AC電圧測定

これまたジャンクで購入した岩通のファンクションジェネレータ SG-4111 の出力を確認しました。周波数は1kHz です。電圧はAN870の桁が上がるギリギリの数値に調整しました。ちょっとでも超えると直ぐにレンジが上がります。そこから元のレンジに戻るには、ある程度電圧を下げないと戻りません(ヒステリシス特性がある、と表現するのでしょうか。)
周波数を変えたり、三角波にして実効値がちゃんと出るかなどもまた確認したいと思います。
SG-4111 出力設定値 | AN870 測定値 | 3478A 測定値 | 差 |
33.7mVpp | 19.915mVrms | 19.976mVrms | -0.061mVrms |
276mVpp | 199.57mVrms | 199.369mVrms | 0.201mVrms |
2.76Vpp | 1.9930Vrms | 1.97960Vrms | 13.4mVrms |
10.01Vpp | 6.932Vrms | 6.9233Vrms | 8.7mVrms |
※AC電流は良い確認方法が思いつかなかったのでスキップします。
抵抗値測定

hpの3478Aは191.5kΩ(383kΩの2パラ)以外、配線抵抗をキャンセルできる4端子法で測定しております。15Ωは3478Aの2端子法で測定するとリードの抵抗値が加わり、15.2Ωあたりでした。
AN870は4端子法での測定は出来ないので、そのまま測ったところ15.0Ωでした。何かキャンセルするような処理をしてるんでしょうか?
抵抗器 | AN870 測定値 | 3478A 測定値 | 差 |
15Ω±5% | 15.00Ω | 14.8981Ω | 0.102Ω |
1.5kΩ±1% | 1.5023kΩ | 1.50108kΩ | 1.22Ω |
10kΩ±1% | 10.004kΩ | 9.9965kΩ | 7.5Ω |
191.5kΩ±1% | 191.85kΩ | 191.670kΩ | 0.18kΩ |
周波数測定

ファンクションジェネレータSG-4111の出力で周波数を確認しました。hpの3478Aは周波数が測定できませんので比較はできません。写真では載せてませんがオシロで周波数を確認した結果と比較すると、10MHz辺りまでAN870の測定値がほぼ正しいようです。
逆に高周波でのSG-4111の表示値とのズレを発見できましたw
コンデンサの静電容量測定
コンデンサ測定は秋月で購入したLCRメーター DE-5000 と比較しております。
AN870の測定周波数は111Hzのようです。(オシロで見た波形から推測)DE-5000も電解コンデンサ測定時はなるべく近い120Hzに設定してみました。
フィルムコンデンサ測定時は1kHzで測定しています。




コンデンサ | AN870 測定値 | DE-5000 測定値 | 差 |
フィルムコンデンサ 6.8nF±5% | 6.825nF | 6.798nF | 0.027nF |
フィルムコンデンサ 68nF±10% | 69.53nF | 69.18nF | 0.35nF |
フィルムコンデンサ 0.47μF±10% | 474.6nF | 472.7nF | 1.9nF |
フィルムコンデンサ 6.8μF | 6.729μF | 6.711μF | 0.018μF |
電解コンデンサ 22μF | 23.34μF | 22.12μF | 1.22μF |
電解コンデンサ 2200μF | 2.023mF | 1888.9μF | 134.1μF |
容量の大きい電解コンデンサはさすがに誤差が大きくなるようですが、フィルムコンデンサなどを測定する分には十分なんじゃないでしょうか。
DE-5000でコンデンサを測った記事も作成しましたのでご覧ください。
その他機能
NCV機能:非接触検電機能です。電気のきているコンセント延長ケーブルなどに近づけるとブザーで教えてくれます。活線作業は危険なので、これで念のためチェックすれば安心ですね!
Duty機能:波形のDuty比を表示できます。
温度測定機能:私は意外と使わないです。データロガー機能があれば便利なんですけどね。
ダイオードチェック機能:LEDの極性に自信がないときに確認できます。
まとめ
安価な中華テスターだし測れればいいや、という気持ちで買いましたが、自分の用途としてはかなり高精度で十分な性能です。耐久性などはこれからですが。
逆に、あれっこの3478Aもう要らなくね?と思ってしまう様な感じでした。約30年前の測定器なので比較するのは酷ですが、、、腐ってもベンチトップ型のマルチメータでロマンがありますのでこれからも使うつもりですw
数増しで購入したい位です。ジャンク測定器の次は中華テスターにハマりつつあります。トータル金額で日置や三和の高級機が買えそうな勢いでマズいですね~。
参考リンク
分解してみました。
別の中華テスターも購入してしまいましたので、下記の記事で紹介しております。
40000カウントのテスターです。
DC電流を測れるクランプメータです。同じくANENG製です。
USB接続可能な6000カウントのテスターです。
同じく、USBでPCに接続可能な4000カウントのテスターです。
単三電池2本で動作する9999カウントのテスターです。
比較用として、国内メーカーのちゃんとしたテスターも購入してみました。
私はAliExpressの公式ショップで購入しましたが、Amazon等でも少し割高ですが購入できるようです。